はじめに
私がイギリスへ行くことを決めた大きな理由の一つが、スポーツコーチングを学ぶことでした。
高校教員として働きながら長年サッカーの指導に携わってきましたが、
「もっと指導について学びたい」
「海外ではどのようなコーチングが行われているのだろう」
という思いが次第に強くなり、33歳で高校教員を辞め、イギリスの大学院へ進学しました。
大学院ではスポーツコーチングについて学びながら、実際に現地の子どもたちにサッカーを指導する機会もありました。
その後、大学院を修了し、今度はロンドンで就職。
そこではサッカーの指導者ではなく、店舗のマネージャーとして、多国籍のスタッフをまとめる立場になりました。
「サッカーのコーチ」と「店舗のマネージャー」。
一見するとまったく違う仕事です。
しかし両方を経験してみると、人をまとめたり、何か一つの方向へ導いたりするという意味では、意外なほど共通することがありました。
今回は、イギリスで子どもたちへのサッカー指導と多国籍スタッフのマネジメントを経験して感じたことについて書いていきたいと思います。
なお、今回書く内容は、あくまでも私自身がイギリスで出会った人たちとの経験から感じたことです。
当然、日本人にもさまざまな人がいますし、海外の人を一括りにすることもできません。
その前提で読んでいただければと思います。
海外へ出て改めて感じた「日本人の素晴らしさ」
まず海外で働いてみて感じたことがあります。
それは、
「日本人って、本当に真面目だな」
ということです。
もちろん「何をもって優秀とするか」は難しいですし、国籍によって優劣をつけられるものでもありません。
ただ、私がイギリスでサッカー指導や店舗運営を経験する中で、日本人の責任感や仕事の丁寧さは非常に高いと感じる場面が何度もありました。
例えば、一度伝えた仕事をきちんと覚える。
時間を守る。
周囲の状況を見ながら行動する。
誰かが困っていれば先回りして手伝う。
細かい部分まで気を配る。
日本で働いていた頃には、それほど特別なことだと思っていなかったことが、海外へ出てみると大きな強みなのだと気づきました。
サッカーの現場でも同じです。
日本人の指導者は、練習前の準備からメニューの構成、選手への声かけ、安全面への配慮など、本当に細かな部分まで考えている人が多いと感じます。
店舗でも、日本人スタッフは何かをお願いすると、こちらが想定している以上に丁寧に仕事をしてくれることがありました。
海外で生活し、さまざまな国籍の人と仕事をしたことで、逆に日本人の良さを実感することになりました。
日本人の弱点
その一方で、
「ここは日本人の弱いところかもしれない」
と感じる部分もありました。
それが、
自分自身を表現する力です。
自分の意見をはっきり言う。
自分が何をできるのかを自信を持って伝える。
必要な場面では強く主張する。
こうしたことに関しては、海外の人たちの方が圧倒的に上手いと感じる場面がたくさんありました。
例えば、
「自分はこれができます」
「自分はこの仕事に向いています」
「自分の考えはこちらです」
と、非常にはっきり主張します。
こちらから見ると、
「そこまで自信満々に言えるほどやっていたかな?」
と思うこともありました。
しかし、それでも堂々と自分を表現します。
対して、日本人は実際には非常に高いレベルで仕事をしていても、
「いや、自分はまだまだなので」
「そんな大したことではありません」
と、自分を小さく見せてしまうことがあります。
もちろん謙虚さは日本人の大きな美徳です。
ただ、海外で働く上では、その謙虚さが必ずしもプラスに働くとは限りません。
何も言わなければ、
「この人は何も考えていない」
「この人には意見がない」
と受け取られる可能性もあります。
イギリスで生活する中で、私は
「能力があること」と「それを相手に伝えること」は別の力なのだ
と強く感じるようになりました。
サッカー指導と店舗マネジメントの共通点
では実際に、サッカーの指導と店舗のマネジメントを経験して、どのようなことが共通していると感じたのか。
特に大きかったのが、次の3つです。
1.自分の立場をしっかり示す
まず一つ目は、
「自分が責任者であることを示す」
ということです。
日本で仕事をしていた頃、私はできるだけフラットな関係を作ることを大切にしていました。
教員と生徒。
上司と部下。
指導者と選手。
立場は違っても、なるべく同じ目線で話しやすい関係を作ることが大切だと考えていました。
この考え自体は、今でも間違っているとは思っていません。
ただ、海外で人をまとめるときには、フラットな関係を意識しすぎるとうまくいかない場面もありました。
あまりにも友達のような関係になると、
「この人の指示は聞かなくても大丈夫」
と思われてしまうことがあります。
特に、さまざまな文化的背景や考え方を持つ人が集まる集団では、それぞれの「当たり前」が大きく違います。
一人ひとりの意見をすべて聞いていたら、いつまでたっても物事が決まらないこともあります。
だからこそ、
「最終的に決めるのは自分です」
「このチームでは、こういうルールで進めます」
という姿勢を示す必要がありました。
サッカーの指導でも同じでした。
選手の意見を聞くことは非常に重要です。
しかし、最終的に練習内容やチームの方向性を決めるのは指導者です。
マネージャーや指導者が決断できなければ、集団はなかなか前へ進みません。
海外での経験を通して、
「フレンドリーであること」と「責任者として線を引くこと」は両立させなければならない
と学びました。
2.圧力ではなく「説明」が必要
二つ目は、
なぜそれをやる必要があるのかを説明することです。
日本では、
「上司が言ったから」
「先生が言ったから」
「先輩が言ったから」
という理由だけでも、ある程度物事が進むことがあります。
しかし、私が海外で働いていたときは、それだけではなかなか人は動いてくれませんでした。
「なぜやるの?」
「それをやる意味は?」
と聞かれることがあります。
最初は、
「仕事なんだからやってよ……」
と思うこともありました。
ただ、マネージャーとして働いていくうちに、こちら側にも説明する責任があると考えるようになりました。
なぜこの作業が必要なのか。
やらないと何が起こるのか。
誰のためにやるのか。
どこまでやれば完了なのか。
これを具体的に伝える。
そうすると、相手も納得して動いてくれることが増えていきました。
サッカーの指導でも同じです。
「この練習をやれ」
ではなく、
「この練習は試合のこの場面につながっている」
「今日はここを改善したいから、このトレーニングをする」
と説明する。
意味が分かれば、選手の取り組み方も変わります。
もちろん、当時の私の英語力では、言いたいことを完璧に説明できるわけではありませんでした。
英語を間違えることもあります。
発音を聞き返されることもあります。
時には英語について何か言われて嫌な思いをすることもありました。
でも、マネージャーとして仕事をしている以上、
「英語に自信がないから説明できません」
では済みません。
知っている単語を並べてもいい。
ジェスチャーを使ってもいい。
とにかく、
自分が使える英語で伝える。
この経験は、英語力以上に大切なものを教えてくれたと思います。
3.ハラスメントは通用しない
そして三つ目が、
相手を圧力で動かそうとしないことです。
これも、海外で指導やマネジメントをする中で強く感じたことでした。
日本では以前から、
「厳しく指導すること」
がある程度肯定的に捉えられてきた面があると思います。
もちろん現在は日本でも大きく変わってきていますが、指導者が強い口調で叱ったり、上下関係を使って行動させたりする場面は、私自身もこれまで見てきました。
しかし海外では、そのようなやり方は非常に大きな問題になる可能性があります。
だからこそ重要になるのが、
感情ではなく、ルールと理由で伝えること
です。
例えばスタッフがやるべき仕事をやっていない。
そのときに、
「なんでできないんだ!」
と感情的に怒鳴るのではなく、
「あなたの担当はここまでです」
「この仕事が終わっていないので、次からはここまでやってください」
と明確に伝える。
それでもできていなければ、もう一度注意する。
必要なら記録を残す。
同じことを繰り返す。
これはサッカーの指導でも同じだと思います。
選手に怖がらせて言うことを聞かせるのではなく、
「何を求めているのか」
「なぜそれが必要なのか」
を明確にする。
そして、できていなければ指摘する。
非常にシンプルですが、これが人を指導する上で大切なのだと感じました。
「人を動かす」という意味では同じだった
イギリスへ行った当初、私はスポーツコーチングを学ぶつもりで渡英しました。
まさかその後、ロンドンで店舗のマネージャーをすることになるとは想像していませんでした。
しかし振り返ってみると、
サッカーの指導と店舗のマネジメントには、共通する部分がたくさんありました。
相手を理解すること。
自分の考えを伝えること。
責任者として決断すること。
なぜそれが必要なのかを説明すること。
そして、相手を尊重すること。
結局、
「人を動かす」という仕事の本質は、業種が変わってもそれほど変わらない
のかもしれません。
まとめ
イギリスでサッカーを指導し、その後ロンドンで多国籍のスタッフをマネジメントした経験は、私にとって非常に貴重なものになりました。
海外へ出たことで、日本人の責任感や丁寧さ、周囲への配慮といった強みを改めて知ることができました。
一方で、自分の考えや能力をはっきり表現することについては、もっと学ぶ必要があるとも感じました。
そして、人をまとめる上では、
責任者として立場を示すこと。
なぜそれをやるのかを説明すること。
圧力ではなく、ルールとコミュニケーションで人を動かすこと。
この3つが非常に重要だと感じました。
私はもともとサッカーのコーチングを学ぶためにイギリスへ行きました。
しかし、大学院だけではなく、その後のロンドンでの仕事からも、「人を指導すること」「人をまとめること」について多くを学びました。
当初思い描いていた形とはまったく違いましたが、それもまた海外へ出たからこそ得られた経験だったと思います。
読者の皆様へ
私は「高校教員を辞めてイギリス大学院へ留学する、そして転職する」という、少し勇気のいる選択をしました。
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このブログで紹介している経験が、皆さんの次の一歩のヒントになれば嬉しいです。
感想や質問だけでも大歓迎ですので、お気軽にメッセージをお送りください。
▼前回の記事はこちら
「高校教員を辞めてイギリス大学院へ|ロンドンでマネージャーとして働いて苦労したこと」
https://motokyouin.com/london-manager-first-challenges/
▼次回の記事はこちら
「高校教員を辞めてイギリス大学院へ|ロンドンで働いて英語力はどのくらい伸びた?」
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